第64回カンヌ国際映画祭特別招待作品
第37回セザール賞ドキュメンタリー部門ノミネート
第64回カンヌ国際映画祭特別招待作品
第37回セザール賞ドキュメンタリー部門ノミネート
『情熱のピアニズム』
大ヒット御礼♪
菊地成孔トークイベントレポート
イメージフォーラムにて連日満席で好調なスタートを切った『情熱のピアニズム』(キノフィルムズ配給)は、2週目に入っても動員前週比99.4%の絶好調で推移する中、劇場トークイベント「ミシェル・ペトルチアーニ 日本の証言者たち」を、音楽家であり文筆家の菊地成孔さんをゲストに迎えて行われた。
TOKYO JAZZを牽引する鬼才ジャズメンの一人語りは‘如何にして天才ミュージシャンが生まれたのか?’‘80年代に50年代のジャズメンの生き方が出来た理由’‘20世紀に積み残した音楽の問題点’などなど多岐に渡り、
超早口弾丸トークの20分間、満席の観客は興味深げに耳を傾けていた。
超早口弾丸トークの20分間、満席の観客は興味深げに耳を傾けていた。
なお、このヒットを受け都内では、11/17(土)~吉祥寺バウスシアターでの公開も決定!
10月27日(土)からは大阪/梅田テアトル、名古屋/名演小劇場でも公開がスタート。
ペトルチーアーニが映画になると聞いた時、50年代~70年代のミュージシャンたちとは違って、ハンディカムが発達した時代ですから、プライベート映像が相当量あるだろうなと予想はしていましたが、映画はまさにその通りで、ご覧になったみなさんには啓示的な感動というか様々思うところがあったのではないでしょうか。
ペトルチアーニは音盤や来日などで充分その演奏の素晴らしさは日本には伝わっていましたが、どうやらこいつは悪そうだ、という感じが薄々あったのが今回余すところなく描かれています。つまりスケベで女ったらしでいつも腹が減っていて呑んべえな男だったということ。一番特筆すべきは、20世紀に特に際立った価値観ですが、ハンディキャッパーに対していたずらに神聖視をしていません。こっちが思っているほどハンディキャッパーは清らかでも天使的でもないぞというメッセージを多分に持っていると思います。
毎晩飲んで騒いで女の人に甘えまくって、好きになられてしまうと今度は支配された気がして、助けてくれとホテルから電話をして脱出する。これは50年代のミュージシャンの典型的なライフスタイルで、80年代のミュージシャンがもう破天荒に生きることが図式的に不可能になった時代に、唯一それを行ったエピキュリアンぶりです。
モダンジャズの開祖チャーリー・パーカーと言わず、モーツァルトと言わず、天才というのはいつの時代も生きづらい人間な訳で、素晴らしい作品を残して早く死んでしまうんだという、我々の天才理解という定石があって・・チャーリー・パーカーの時代は黒人差別まであって社会情勢的にも生きづらい訳ですから、酒浸りや麻薬に行ってしまう。
映画の最後にギタリストのジョン・アバークロンビーが出てきて言う「70年以降のジャズミュージシャンは何も作っていない、ペトルチアーニだけが作ったんだ」というのは業界的にも言っちゃいけないような一言でしたが、アバークロンビーが伝えたかった感覚というのは、天才には常に恒常的に耐え難い痛みがあって、その痛みというものが、チャーリー・パーカーを原型とするような天才の所業に走らせるんだなということだと思います。
世の中が進んでいって、当たり前ですけど「痛み」というものは消えていって、恒常的な痛みを持ち続けることが構造的に不可能な時代に、彗星のように現れたペトルチアーニ。彼は骨形成不全ですからピアノを弾くのには常に痛みが伴っていて、演奏中はアドレナリンが出てますから私なんかも経験ありますが首ぐらいはねられても演奏できる訳ですが、終わってからの痛みといのは大変なものがあったと思います。
ペトルチアーニ以降、どうやったら痛みというものをキープしたまま音を出せるのか、ジャズ、ブルースというのはひょっとしたら21世紀に死んでしまって、一個人が殉教者のようにして特別な痛みを抱えて音を出すというのは可能なのだろうかというところにまで思いを馳せられる作品でした。
音楽的に特筆すべきところは、日本人はまだピアノを打楽器だと思う習慣がないので、ピアニストのリズム感にはあまり注意を払いませんがビル・エバンスからバド・パウエルにつながるモダンジャズピアニストの本当の凄みはリズム感にあります。とんでもないポリリズムで、とてつもなく正確なリズムを弾くんですが、踊れないペトルチアーニが脳と手だけであれだけ正確なリズムを刻むのは、神秘的としか言い様のない一番驚くべきものすごさですね。
音楽が長寿に繋がるという発想と、命を削りとっていくという発想と、いま二つ問われていて、その音楽の根本的な部分に関して20世紀で総括できなかった問題を21世紀に我々は先送りにしているわけですが、そういう部分に関しても啓示的なメッセージを持った映画だと思います。
『情熱のピアニズム』を始め、『グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独』や『タケオ ダウン症ドラマーの物語』など、20世紀が結局答えを出せずに棚上げしてしまっている問題について複数の映画によって問われているということは間違いありません。
先天性の骨形成不全症を抱えながらも生を謳歌することに貪欲だったミシェル・ペトルチアーニが、ヨーロッパで初めて名門ブルーノート・レコードと契約、フランス最高のピアニストと讃えられた栄光の日々から、常に女性問題に悩まされ続けたプライベート、名だたるミュージシャンと世界中を飛び回った演奏旅行など、36歳で夭折するまで時代の寵児が駆け抜けた劇的な生を描く。手がけるのは『イル・ポスティーノ』(94)でアカデミー賞®5部門にノミネートされ、世界各国の映画賞を席巻したマイケル・ラドフォード監督。
ミシェル・ペトルチアーニ生誕50周年記念
『情熱のピアニズム』
監督 マイケル・ラドフォード『イル・ポスティーノ』『ヴェニスの商人』
出演:ミシェル・ペトルチアーニ、チャールス・ロイド、アルド・ロマーノ、リー・コニッツ 他
2011/仏・独・伊/カラー/デジタル/ビスタ/5.1ch/103分/
原題:Michel Petrucciani/Body&Soul/日本語字幕:寺尾次郎
©Les Films d'Ici–Arte France Cinéma-LOOKS Filmproduktionen GmbH–Partner Media Investment–Eden Joy Music–2011
提供:コムストック・グループ 配給:キノフィルムズ
www.pianism-movie.com

