東京・渋谷区のシアター・イメージフォーラムにて行われた公開記念イベントに、実際に幼いころからモデルとして活躍し、鑑賞後思わず拍手してしまったほど本作を絶賛の栗原類。そして、 アートディレクションから造形作品の制作まで幅広く活躍中のアーティスト清川あさみ氏が登壇。それぞれの視点から作品を分析し語り合った。
本作は、1977年、実の母親が撮影した自分の娘のヌードという触れ込みで、フランスのみならずヨーロッパや日本でも大きな議論を呼んだ写真集「エヴァ(現題)」が34年を経て映画化されたもの。被写体だった娘のエヴァ自身が監督を務め、 母親の要求に応える幼い少女が痛ましく変貌していく体験をリアルに描く。2011年カンヌ映画祭・批評家週間50周年記念作品として上映され、テーマと作品の完成度の高さに騒然となり話題となった作品だ。
<以下、トーク内容>
MC:まずは、作品の感想を
栗原:この映画は、アートとは何なのかを考えさせられる作品。特に、ヌードと裸の写真との境界線も考えさせられました。娘と母親の現実的な部分もあってとても面白かったです。最後がとても心に残ります。
清川:少女がはじめはとても嫌がっているのに、だんだん自分に注目がくることによって女性として目覚める姿や母親の欲望やエゴ。2人の心情がどんどん変化していく様がすごく面白かったです。親子関係、本当の愛情とはいったい何かを考えさせられる作品です。
MC:栗原さんは5歳くらいからモデルをやっていますが、きっかけは?
栗原:僕も小さいころからモデルの仕事をやっていて、歳をとるとともに、この仕事を本格的にやりたいという気持ちになり、母親が思い出作りとして事務所に登録しました。気づいたらやっていたという感じです。
MC:作品を通して、撮影者と被写体というそれぞれの視点からお話を聞かせてください。
清川:母親の気持ちもすごくわかります。この母親は強い世界観を持っていて、被写体を自分色に染めたい人ですが、自分もそういう部分があります。一方で、新しい世界に連れて行ってあげたい、その人を気持ちよくしてあげたいという気持ちもあります。まったく同じ気持ちで被写体と向き合っていると思いました。どんどん見たいとエスカレートする気持ちは共感しましたね。
栗原:この場合は、撮られる側と撮る側が他人ではなく親子なので、お互いのことを知っている関係。撮る側である母親が、娘の弱点もよくわかっていて、それをうまく覆していいものにしようとしている。そこは母親と娘という関係性が強いと感じました。なので、最初ヴィオレッタはやる気がなかったけど、想像を越えるできにだんだんやる気が出てきたのでは。
MC:共感できる部分、できない部分は?
栗原:共感できない部分はほとんどないですが、2人は親子なのでお互いになんでも相談ができるような気もしますが、全くそういうのはなく完全に母親のいいなりになっているのが少しがっかりですよね。幼いので母親のことを信じている部分は普通にあってもおかしくないです。共感できた部分はいろいろありました。母親は自分の世界観がはっきりしていて、見てくれる人にいろんな感情を感じてほしいというのが伝わってきました。
MC:撮影者としての評価はどうですか?
清川:女性ならではですが、この母親は、自分がやりたかったものや美的センスをその人に投影させてしまう人。なので、みんなを驚かせるようなモチーフを少女に押し付けて自分の憧れている世界をその場その場で創る。こういうクリエーターの方もいるような。
MC:アートを極めてモラルを逸脱することについては?
栗原:母親は自分が崩れてしまう前に、彼女なりの助けを求めていたのだと思います。自分の考えを娘に押し付けたことで喧嘩も多くありましたが、自分の思うことをそのまま出していました。何も感じていないようで本人も心のなかでは間違っていたと感じていて、ある意味では彼女も被害者の一人なのかなと思います。自分では表現できないので娘を美しく見せながら、わたしもこの画の中にいるというエゴが大きくり、それがボーダーラインを超えてしまった。誰が悪いというより、今の人たちなら共感できるはずです。
清川:女性独特のコンプレックス丸出しのお母さんだと思いました。育ちからしていろいろあった方だし、なによりも美しいものに対しての憧れがこんなに強いというのは、老いていくコンプレックスがでている。なので若くて美しい娘に対して劣等感を抱いていく様が不思議な関係性をつくっていますね。
MC:清川さんが撮影者として、人が美しいと思う瞬間は?栗原さんだとどうですか?
清川:類くんは特殊ですね。見た目も綺麗だし美しい人。わたしは見た目の美しさより中身に惹かれるタイプで、育った環境やどういうものに囲まれて生活してきてこうなったのか、そういうところに美しさを感じる。その個性が出ている瞬間が一番美しいと思います。
栗原:2年前に初めて清川さんとご一緒したときも、人の中身に惹かれるとおっしゃっていましたね。清川さんの写真は、その人の内面を引き出してさらに幻想的に、美しさも醜さも深く表現されています。清川さんもそういう部分があるからだと思います。
清川:すごく嬉しいですね。わたしは、丸出しにするより隠したり、作品にして少しずつ出すことに美しさを感じます。そこに気づかれていますね。
MC:明日5/11は母の日ですが、お母さんについて聞かせてください。
栗原:母は普通の人間です。普通すぎて特に面白みはありません。
清川:ほんと?撮影の現場で、お母さんの話をしていたのが印象的だったけど…育ち方というか個性的な親子関係だと思いましたが。
栗原:普通の仲のよい親子だと思います。ヴィオレッタも母親と話し合いができる関係があったなら、もっと環境は長く続いたかもしれないですね。こういう仕事は、写真家と撮られる側の仲も必要かなと。
MC:母の日のプレゼントは用意していますか?
栗原:ノーコメントです。本人が期待しちゃうかもしれないので、内緒にさせていただきます。
清川:わたしは昨日、母を中心に家族にお寿司をプレゼントしてきました。
MC:最後に、映画のおすすめポイントを
栗原:アートとは何か、親子関係の深さ、人間とは何かを考えさせられます。見たら衝撃がずっと頭に残る。いろんな視点から自己分析が可能な作品なので何度も見てほしいです。
清川:映画自体がアートだなと感じます。ヴィオレッタ中毒にかかりそうなくらい、女性独特の心情の変化が楽しめる作品です。女性に限らず男性にも見ていただいて、女性とは何か、親子ってなんだろうと感じてもらえればいいなと思います。
(C) Les Productions Bagheera, France 2 Cinema, Love Streams agnes b. productions
<Story>12歳の少女ヴィオレッタ(アナマリア・ヴァルトロメイ)は、優しい曾祖母に育てられてきた。かつては画家で今は写真家を目指している母アンナ(イザベル・ユペール)は留守がちで、娘たちとは別に部屋を借りて寝起きしている。複雑な家庭事情の中で暮らしている3世代の女性たちはお金がなく日々の暮らしにも困る有様であった。 ある日、ヴィオレッタはアンナに自室に招き入れられる。厚いカーテンに閉ざされた光の入らない部屋は、アールデコ風の家具や鏡、妖しい香り漂うオブジェで埋め尽くされていた。娘に「ママは写真を撮っているの」と切り出したアンナは、ヴィオレッタの三つ編みの髪をほどき、白いレース・ドレスに着替えさせ、写真を撮り始める。母と遊んでいるような感覚が楽しく、母にこたえ言われるままにポーズを取るヴィオレッタ。 学校でのヴィオレッタは、授業中もポーズの練習に余念がない。そんな娘をアンナが放課後に迎えにくる。保護者会にも来てほしいと訴える娘に対し、母は他の取り柄のない凡人たちと自分たちは違う、行く必要はないと言い放つ。そして、画家エルンスト(ドニ・ラヴァン)のアトリエにヴィオレッタを連れて行く。そもそもアンナにニコンのカメラを与え、彼女が写真を撮るきっかけを作ったのは、このエルンストだった。アンナの写真を見て、彼は「絵より写真の方が才能がある。続けることだ」とアドバイスする。そんな母とエルンストを退屈そうに眺めていたヴィオレッタは、エルンストと母が親密そうにする姿に不快感を募らせ、彼の絵をメチャクチャにしてしまう。帰り道、「彼はママの恋人なの?」と問う娘に、せかせかと歩きながら「厳密にはそうじゃない。ママは肉体恐怖症で人間の人体が怖いの」と告白するアンナ。 ヴィオレッタの身を案じる曾祖母の祈りとは裏腹に、母娘のフォトセッションはエスカレートしていく。ヴィオレッタの衣装はレースのドレスから、シースルーやスパンコールのレオタード、黒ストッキング、ガーターベルトへ。赤いルージュに濃いアイメイクを施して、葬式用の花輪や十字架、髑髏や壊れた人形などを手に、ヴィオレッタは妖婉なポーズでしなを作る。さらに、アンナはヴィオレッタのドレスをはぎ、脚を開かせたり過激なポーズを要求するようになっていく。 やがてアンナの個展が開かれる。新進アーティストの仲間入りを果たしたアンナの評判はヨーロッパを駆け巡り、写真も高値で売れ始めた。ある時、母娘はシド・ヴィシャスとのフォトセッションのオファーを受けて、ロンドンへ飛ぶ。シドにお姫様のように扱かわれ、気をよくしたヴィオレッタだったが、翌日撮影が始まると、服を脱いでシドとのキスを求める母の指示を拒んで撮影から逃げ出してしまう。この日を境に、ヴィオレッタはアンナに利用されていることへの不満を爆発させるようになる。 やがてヴィオレッタを守り続けてきた曾祖母が遂にこの世を去る。アンナが売った写真が男性誌のカヴァーを飾り、学校でも「ヌードモデル」と囃されていじめられるヴィオレッタは孤独を募らせてゆく。一方、アンナの写真は話題を呼ぶと同時に倫理上の議論を巻き起し、児童虐待のかどで裁判所から保護者失格の烙印を押しされるアンナ。ヴィオレッタの親権を失いそうになったアンナは弁護士に救済を求めるが、ヴィオレッタの母に対する嫌悪は募るばかりだった。
2011年/フランス/1時間46分/カラー/2.35:1/ステレオ 原題:My little Princess 監督:エヴァ・イオネスコ 脚本:エヴァ・イオネスコ、マーク・チョロデンコ、フィリップ・ル・ゲイ 製作:フランソワ・マルキス 撮影:ジーン・ラポワリー 衣装:キャサリン・ババ 音楽:ベルトラン・ブルガラ 出演:イザベル・ユペール『3人のアンヌ』、アナマリア・ヴァルトロメイ<新人>、ドニ・ラヴァン『ホーリー・モーターズ』
© Les Productions Bagheera, France 2 Cinéma, Love Streams agnes b. productions
提供:メダリオンメディア 配給・宣伝:アンプラグド
公式サイト:http://violetta-movie.com/
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